医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.13 心不全の慢性期治療および予防法について

心臓の機能が正常であれば原則、心不全は起こりません。心不全を予防するにはまず患者さんの心機能に問題がないかどうかを調べる検査・診察が必要です。心不全の原因となる心機能障害とは①左室収縮不全②左室拡張不全③中等度以上の特に大動脈弁、僧帽弁膜症④徐脈性・頻脈性不整脈 などが上げられます。 基本的には年に1回実施される健診を受診して下さい。心電図、レントゲン、聴診の3つの健診結果から心不全予備軍かどうかを知ることができるでしょう。特に高血圧や糖尿病のある患者さんは心不全のリスク因子ですので、心電図や聴診については厳しく判定するべきでしょう。近年高齢化に伴い大動脈弁狭窄症(AS)が増加しています。AS患者さんは初期には症状は起こりませんが、重度になると突然心不全を起こします。聴診によりおおよその重症度はわかりますので年1回の健診でも重症化する前に見つけることは十分可能です。以前は超高齢者になって初めて診断されることが多く、手術侵襲に耐えられないとのことで保存的治療となり予後不良の病気でした。しかし、近年ではTAVIと言われるカテーテルで治療できるデバイスが確立し、多くの高齢AS患者が予後を伸ばすことが出来るようになりました。しかし、診断できずに放置すると突然死する可能性があるので、まずは診断されることが必要でしょう。少なくとも日常息切れがある方は軽度であっても聴診などに異常がないかどうか評価してもらいましょう。健診で少しでも心機能障害が疑われれば保険診療で行われる二次検診を受診します。心機能障害を評価する最も簡便な検査は心臓超音波検査(心エコー)です。心エコーは心筋の動きはもちろん、弁の逆流や血流速度を測定するドップラーエコーが同時に評価できるため弁膜症の診断に優れます。

 それでは心機能検査で異常と診断された場合、心不全に対してどのような予防をとったらよいのでしょうか? すでに心不全で入院したことのある患者さんなら、薬物療法を中心に再発を防ぐことが大事です。前回は心不全急性期に行う治療を紹介しましたが、急性期と慢性期予防的治療は少し異なります。薬物治療で代表的なのは、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換阻害薬(ACE)といった腎臓で生まれるホルモンを制御することで血管拡張作用や心臓保護作用を狙った治療、心臓保護のためのβ遮断薬による治療です。アンジオテンシンは強い昇圧作用を持ったホルモンで、ARBやACEはその働きを抑えることで降圧や血管拡張による心負荷軽減が得られるのですが、心筋に対しても直接心保護作用があることもわかっています。特に左心室心筋肥大の患者さんでは肥大を軽減する作用があると報告されています。これらの治療でも心不全が改善しない場合にはアンジオテンシンにより活性化するアルドステロンというホルモンを抑える薬が有効な場合があります。このホルモンは塩分を構成するナトリウム(Na)を腎臓で再吸収することで昇圧作用を有しますのでそれを抑えることでNaを尿と一緒に排泄します。利尿効果もあるので心不全治療に適しています。但し、この薬はカリウム(K)が保持されますので高度の腎障害をもった腎不全患者さんは服用できません。腎不全の方にはNa,Kいずれも利尿を促すループ利尿剤(フロセミド)がしばしば用いられます。腎不全では尿が出にくいですので心不全のリスクになります。腎不全がありむくみがしばしば見られるような患者さんでは積極的に利尿剤の投与が必要です。主な薬物治療は以上ですが、生活する上で注意することがいくつかあります。最も大事なのは食事療法で、特に塩分摂取過多には最も注意が必要です。高齢の方は全般的に味覚が高い塩気に慣れています。料理を作る方は特に塩分を抑えた食事を心がけて下さい。一人くらしの方は友人知人、家族と食事をした時に自分の塩気の感じ方を人と比べてみると良いでしょう。自分では気づかずにしょっぱいものを摂っている可能性があります。肥満・高血圧の方は心不全のリスク大です。特にBMI(身長体重のバランスを数値化したもの)30を越えている患者さんはやせることで降圧、心不全のリスクも大幅に低減することが期待出来ますので、是非がんばってやせてください。最近、高齢者は脳梗塞や心筋梗塞のリスクがありその予防のために水を沢山飲むようにと促す傾向があります。医師側は過剰な飲水を強要はしていませんが、私が聞く限りでは家族がかなり多量の飲水を促しているケースがあります。過剰に飲ませても尿として排泄するだけで逆に夜間の排尿回数が増し、睡眠を妨げる可能性があります。問題なのは心不全が発生しやすくなることです。心不全リスクのある方は節度ある飲水を心がけて下さい。通院中の方は水分摂取について主治医と相談しましょう。

 頻脈性不整脈、特に心房細動は心不全の最大のリスクといって過言ではありません。病初期は発作性心房細動と言われ、突然発症し、自然に消失する病態を繰り返します。自分では症状がわからない人もいて、ある日突然心不全で入院したら心房細動が判明することがあります。発作性心房細動は心不全のリスクだけで無く脳梗塞の合併が多く、注意が必要です。基礎に高血圧や狭心症・心筋梗塞の既往などの基礎疾患があることが多いですが加齢だけでもリスクになります。高齢者で高血圧のある方は日常、血圧測定する際に脈拍数にも注目して下さい。普段より20くらい多い脈拍を見つけたら脈を触ってみてリズムがばらばらになっていないか確認すると良いでしょう。もしそのような脈が続くようならかかりつけ医と相談しましょう。

 以前から心臓リハビリという概念があり、この治療が心不全を含む心臓病の予防に有効とされています。次回はこのテーマでお話いたします。

コラムNo.12 心不全の治療はどのように行われるか?

前回、心不全の病態について説明しました。それでは心不全になってしまったらどのように治療したらよいのでしょうか?心不全状態では循環不全を起こすことにより、体液が肺や胸腔、下肢を中心とする皮下組織にむくみとして貯留します。従って、この貯留した水分を身体から排出すればよいわけです。最も一般的な心不全治療薬である利尿剤は、腎臓に働きかけて尿として水分を強制的に排出させる薬剤です。心不全では出口が渋滞して水分が出られない状態になっているので、その出口をスムーズに排出させれば渋滞が解消されるというわけです。もう一つ、心不全を増悪させている病態の一つに反射性の交感神経の亢進があります。これにより血管が収縮して循環をさらに悪くします。それを解消するために血管拡張薬で血管を弛緩させることが重要です。急性期は利尿と血管拡張で循環不全が改善して退院するところまでいきます。交感神経の亢進は反射的なもので完全に抑えてしまうと逆に心不全が悪化しますが、適度に抑えると心機能自体が改善する可能性があります。ベータ受容体遮断薬という種類の交感神経抑制薬を少量から投与するのが一般的な治療法です。 心機能が急激に低下して起こる心不全の場合、原疾患の治療を優先することが重要です。最も多いのが急性心筋梗塞で、血管が詰まって心筋が壊死するために心機能が弱り心不全を起こすことがあります。この場合、早期の血行再建を行うことでその後心機能が改善し、直ちに循環不全が解消することがあります。

 以上が多くの心不全症例で行われる治療法ですが、心不全患者さんは腎機能障害を伴うことも多く、利尿剤が必ずしも有効とは限りません。腎機能が廃絶している透析患者さんの場合には透析しながら水分を除去することで心不全は改善します。また利尿剤や血管拡張薬だけでは間に合わない患者さんでは心機能を一時的に強くしながら心不全を改善させるカテコールアミンという点滴治療を併用します。近年、トルバプタンと言われるバソプレシンというホルモンを抑える薬が開発され、重症心不全の治療として用いられるようになりました。バソプレシンは利尿を抑える下垂体後葉ホルモンで、これを抑えることにより利尿を促し心不全を改善させます。但し一錠の薬価がかなり高く、重症心不全例に限定して使用されることが一般的です。  以上のように心不全状態になっても投薬により改善することができます。しかし、このような状態にならないよう予防することが重要です。予防については次回にお話します。

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