医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.12 心不全の治療はどのように行われるか?

前回、心不全の病態について説明しました。それでは心不全になってしまったらどのように治療したらよいのでしょうか?心不全状態では循環不全を起こすことにより、体液が肺や胸腔、下肢を中心とする皮下組織にむくみとして貯留します。従って、この貯留した水分を身体から排出すればよいわけです。最も一般的な心不全治療薬である利尿剤は、腎臓に働きかけて尿として水分を強制的に排出させる薬剤です。心不全では出口が渋滞して水分が出られない状態になっているので、その出口をスムーズに排出させれば渋滞が解消されるというわけです。もう一つ、心不全を増悪させている病態の一つに反射性の交感神経の亢進があります。これにより血管が収縮して循環をさらに悪くします。それを解消するために血管拡張薬で血管を弛緩させることが重要です。急性期は利尿と血管拡張で循環不全が改善して退院するところまでいきます。交感神経の亢進は反射的なもので完全に抑えてしまうと逆に心不全が悪化しますが、適度に抑えると心機能自体が改善する可能性があります。ベータ受容体遮断薬という種類の交感神経抑制薬を少量から投与するのが一般的な治療法です。 心機能が急激に低下して起こる心不全の場合、原疾患の治療を優先することが重要です。最も多いのが急性心筋梗塞で、血管が詰まって心筋が壊死するために心機能が弱り心不全を起こすことがあります。この場合、早期の血行再建を行うことでその後心機能が改善し、直ちに循環不全が解消することがあります。

 以上が多くの心不全症例で行われる治療法ですが、心不全患者さんは腎機能障害を伴うことも多く、利尿剤が必ずしも有効とは限りません。腎機能が廃絶している透析患者さんの場合には透析しながら水分を除去することで心不全は改善します。また利尿剤や血管拡張薬だけでは間に合わない患者さんでは心機能を一時的に強くしながら心不全を改善させるカテコールアミンという点滴治療を併用します。近年、トルバプタンと言われるバソプレシンというホルモンを抑える薬が開発され、重症心不全の治療として用いられるようになりました。バソプレシンは利尿を抑える下垂体後葉ホルモンで、これを抑えることにより利尿を促し心不全を改善させます。但し一錠の薬価がかなり高く、重症心不全例に限定して使用されることが一般的です。  以上のように心不全状態になっても投薬により改善することができます。しかし、このような状態にならないよう予防することが重要です。予防については次回にお話します。

コラムNo.11 心不全とはどんな病気か

「心不全」と言う言葉は日常よく聞かれると思います。文字通り、心臓が機能を失う状態と考えて良いでしょう。以前、死亡診断書に書かれる死因で「急性心不全」と書かれていることがしばしばありました。人間死ぬ時は心臓が停止するので心不全は当たり前のことです。死因不明な時にこの病名を書いていたと思われますが、現在ではこの病名をつけることは禁止されています。心停止に至った原因となる疾患名を死因としなければなりません。今回は全身の病気があって二次的に心停止するのではなく、心臓そのものが原因となって機能不全に陥る「心不全」についてお話します。一般に心不全の症状で典型的なのが「息切れ」です。特に歩行時など身体活動によって症状が悪化します。一見、呼吸器疾患のような症状がなぜ心不全によっておこるかを説明しましょう。まずは人の体循環から説明します。人間の血液の循環は 心臓左心室→大動脈→全身臓器(動脈系)→(一部腎臓から排泄)→(静脈系)→右心房→右心室→肺動脈(静脈系)→呼吸から得られた酸素をとりいれる→肺静脈(動脈系)→心臓左心房→左心室→・・・ これを繰り返します。重篤な心不全に陥る原因となるのが左心室の機能不全です。左心室は血液を身体に送る大事な部分で心臓の中でも最も厚い筋肉で構成されています。皆さんが測定している血圧の収縮期血圧(上の血圧)はこの左心室内の圧力とほぼ同じです。左心室の力が弱くなり(収縮不全)、ある一定の血圧が上がらなくなり、動きが悪くなることで1回の拍出量が低下し、体循環が悪くなります。左心室から十分な血液が送り出せないと徐々に手前の左心房に血液が淀んできます。やがて肺静脈、肺内に血液が淀むことになり、肺内に血液が鬱滞すると酸素を血液に取り込めなくなります。その結果呼吸が苦しくなるのです。身体活動が高まると酸素需要が高まるのですが、それに見合う酸素が取り込めなくなるためにより呼吸障害が強くなります。これが心不全に伴う息切れの原因です。左心室収縮不全だけでなく拡張不全でも同じようなことが起こります。左心室は拡張するときに左心房から血液が流入しますが拡張不全があると血液が左心室に流れ込みにくくなります。それにより同様に肺内に血液が鬱滞するようになります。心臓弁膜症でも心不全が起こります。弁が狭窄したり、弁から血液が漏れたりする(閉鎖不全)程度が強いと結果的に肺内鬱血が起こります。一方、右心室の機能不全があると肺内鬱血はないのですが全身から血液が返って来にくくなるため、足などにむくみが現れます。肺と肺を包む胸膜の間の胸腔というスペースに水がたまるものを胸水と呼びますが、右室不全(右心不全)を原因とすることが多いと思われます。このように心不全とは心臓の機能異常に伴う循環不全といい変えることができます。

それでは左心室機能が低下して起こる左心不全の原因は何でしょうか? わかりやすい病気では心筋梗塞があります。心筋の一部が血管の閉塞により壊死することで心筋のポンプの力が弱まってしまいますが、広範に壊死してしまうと心不全になりやすくなります。心筋症と言われる心臓病も心不全を起こす代表的な疾患です。特に拡張型心筋症と言われる左心室が拡大し、収縮力も低下する疾患は心臓移植の対象疾患として最も多く見られます。肥大型心筋症は、収縮力はそれほど落ちませんが拡張機能が落ち、心不全を起こす可能性があります。この疾患はどちらかというと致死性の不整脈を誘発することが問題です。しかし、急性心不全で最も救急で受診する患者さんが多いのが高血圧性心不全といわれる高齢者で多く見られる疾患です。左室収縮力はそれほど低下していませんが、拡張能の低下が心不全の原因です。長いこと高血圧に曝されて心筋が厚くなり、やがて心筋線維化が起こり、拡張能を中心とする心機能低下が見られます。中には拡張型心筋症と区別がつかないような左室拡大と収縮不全に陥る例もみられます。近年、高齢者が増加する中、この心不全患者が増えており、「心不全パンデミック」という言葉も切られるようになってきました。次回は増え続ける心不全への対策について説明致します。

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