医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.17 医者に行く前に診てほしい 患者のためのChat GPT活用術

No2. 腹部症状編

今回は腹部症状に関するChatGPT活用についてのお話しです。まず例題からお示しします。

質問1. 昨日からおなかが痛くて困っています。診療所を受診した方がよいでしょうか?

GPTの回答: 以下のようにかなり丁寧に答えてくれます。

おなかの痛みは原因や重症度が幅広く、軽い胃腸炎から緊急治療が必要な病気まで様々です。。受診を急いだほうがよいかどうかは、痛みの特徴や伴う症状によって判断します。


すぐに受診(救急を含む)が必要なサイン

  • 急に強い痛みが出てきた、またはどんどん強くなっている
  • 発熱(特に38℃以上)を伴う
  • 吐き気や嘔吐が続く
  • 血便や黒色便が出ている
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)がある
  • 意識がもうろうとする、冷や汗が出る
  • 下腹部の激痛で歩けない、立てない

こうした症状があれば今すぐ医療機関を受診してください。


昨日からの腹痛で、症状が軽くても受診をおすすめする場合

  • 痛みが1日以上続いている
  • 食欲がない、体調が悪化してきている
  • 排便や排ガスが全くない
  • 腹部が張って苦しい
  • 過去に消化器疾患(潰瘍、胆石、憩室炎など)の既往がある

受診までの注意点

  • 水分は少しずつ摂る(脱水防止)
  • 食事は脂っこいものや刺激物を避け、消化の良いものに
  • 解熱鎮痛薬や市販胃腸薬は、症状や病気によって悪化させる場合があるため、自己判断で使いすぎない

もし差し支えなければ、痛みの場所(右上腹部・左下腹部など)、性質(刺すような、鈍い、周期的など)、発熱や下痢・便秘の有無を教えていただければ、もう少し具体的に受診の緊急度を判断できます。

というように医師のアドバイスとほぼ同じ対応をしてきます。しかし、最初からもう少し症状をしぼって聞いてみると良いでしょう。痛みの性状、場所、発熱、下痢、便秘の有無は診断に大変重要です。そこで下記のように最初から絞り込んで質問すると良いでしょう。

質問2.上腹部の痛みが今朝から出現しました。食べると症状が軽くなり、空腹で痛くなります。食欲は軽度低下していますが、下痢や便秘はありません。発熱はありません。嘔吐もありません。医療機関を受診した方が良いでしょうか?

ChatGPTの回答

お話の症状(空腹時に痛みが出て、食後に軽くなる上腹部痛)は、
典型的には胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍でみられるパターンです。


受診をおすすめする理由

  • 消化性潰瘍は進行すると出血(吐血・黒色便)や穿孔(胃や腸に穴が開く)を起こすことがあります。
  • 早めに診断し、胃カメラやピロリ菌検査、必要に応じて胃酸抑制薬の内服を始めることで、症状の改善と再発予防が可能です。
  • 市販の胃薬で一時的に症状が軽くなることもありますが、根本的な原因(ピロリ菌感染や薬の副作用など)を特定しないと再発します。

受診の緊急度

  • 現時点では発熱や嘔吐、吐血、黒色便などの重症サインがないため、救急外来を受ける必要は低いと思われます。
  • ただし、1週間以内を目安に内科または消化器内科を受診して原因を調べることをおすすめします。

受診までに気をつけること

  • 空腹時間を長くしすぎない(少量の消化のよい食事を複数回に分ける)
  • 刺激物(コーヒー、アルコール、唐辛子など)や脂っこい食事を避ける
  • NSAIDs(ロキソニン、イブプロフェンなどの鎮痛薬)を自己判断で飲まない
    ※胃潰瘍を悪化させる可能性あり
  • 水分はしっかり摂る

このように症状を詳しく絞り込んで説明するとかなり具体的な対応を答えてくれます。自分がどんな病気に陥っているのか、または病気ではないのか、などをChatが教えてくれます。

自覚症状はそれほどではないが局所の痛みが目立つ場合の質問です。

質問3. 昨日から右下腹部がきりきり痛む感じがします。普通に生活はできますが気になります。痛む場所を少し強く推すと痛みが増強します。

Chatの回答

右下腹部の「きりきり痛む」症状は、いくつかの病気でみられますが、虫垂炎(盲腸)や、女性の場合は卵巣の病気(卵巣嚢腫のねじれなど)も重要な鑑別になります。

注意が必要な理由

  • 虫垂炎は初期は軽度の痛みでも、時間とともに悪化し、発熱や吐き気、強い圧痛が出てきます。
  • 右下腹部を押して離したときにより痛みが強くなる(反跳痛)がある場合や、歩行で響く場合は要注意です。
  • 卵巣や卵管の病気も、急な腹痛の原因になります(女性の場合)。

今の時点での対応

  • 普通に生活できる程度でも、症状が昨日から持続しているため、早めの受診(できれば本日中)をおすすめします。
  • 自宅で様子をみてよいのは、痛みが軽く、悪化傾向がなく、発熱・吐き気・下痢・便秘・血便が全くない場合のみですが、それでも診断確定には診察が必要です。

すぐ受診すべきサイン

  • 痛みの悪化
  • 発熱(37.5℃以上)
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢や便秘の悪化
  • お腹が固く張る
  • 歩行や咳で響く痛み

まとめ
症状の経過と部位から虫垂炎の可能性もあるため、救急外来または本日中の医療機関受診を強く勧めます。

以上がChatの回答でした。大変適格です。

診療所を受診すればさらに、腹部の触診や聴診を行います。虫垂炎や胆石発作、婦人科的炎症疾患などの腹部炎症性疾患では触診で重症度が判定できます。さらに血液検査で炎症反応を確認すれば手術可能な病院へ紹介するかどうかの確信を得られます。いずれにしても「おなかの痛み」があったら、具体的な症状をChatに入れて尋ねてみることが有用です。

コラムNo16. 医者に行く前に診てほしい 患者のためのChat GPT活用術

AIの発達はめざましく、多くの専門分野でその威力を発揮している。その中で対話型AIであるChatGPTは多くの人が、悩み相談や専門的な情報を調べたり確認したりすることに使用しており、今や必須のアイテムになろうとしている。当然ながら医療従事者の間でも日常診療の相談として大きく貢献している。しかしながら、患者さんから見るとまだ医療・医学の壁は厚く、このような優れた武器があってもそれを使いこなすことは容易ではないようだ。Chat GPTは優れた機能を持っている反面、プロンプトという情報を得たいときにする質問が、的を得ていないと目的の情報を得ることはできない。その情報を得るためのプロンプトをどのように選択すればよいのかを今回解説したい。これは医師がどのようなプロセスで診断、治療を行っているかに強く関係している。そのあたりを具体的な例に基づき解説していきたい。

No1.  胸部症状編

質問1 「胸が痛いのですが、心臓が悪いのでしょうか?」

これをChatGTPに聞いてみると、「必ずしも心臓病とは限りません」の後に多くの鑑別診断が挙げられます。その際、鑑別に必要な症状が挙げられて自分にどれが当てはまるかを確認することができますが、これを自分で分析することは難しいかもしれません。

そこで、まず質問者さんには以下のことを条件にいれて尋ねてみるとよいでしょう。医師はいつも以下の項目を考えて鑑別診断をしています。

  • 自分の年齢、性別
  • どの時間帯(朝、昼、夜)、どのくらい持続するか? 労作でおこるか安静で起こるか?
  • 胸のどの辺が痛いのか、右側か左側か?
  • 健診を受けていれば指摘されている生活習慣病に関する情報(糖尿病の有無、コレステロールが高いかどうか、高血圧の有無など)

実はこの①‐④に答えてもらえばだいたい心臓病があるかどうかがわかるのです。

  • -④の内容を踏まえて、以下のような質問を投げかけます。

「50歳男性、朝出勤時に駅に歩いて向かう間に左胸に胸痛が出現、胸痛は立ち止まると改善する。高血圧を指摘されて45歳から降圧薬を服用している。」

上記の質問をChatGPTに聞いてみると、虚血性心疾患である可能性は80-90%であると回答し、鑑別診断も労作性狭心症以外は「まれ」として他の疾患を2つほど上げるにすぎません。

胸が痛いという訴えは若い人でもよくあります。心臓病は若い人には起こりにくいので年齢は重要な因子です。30歳の胸痛の方が同じような質問をしたらどうなるでしょうか? 

「30歳男性、左胸が時々痛むが安静で時間帯は無関係に発作が起こる。持続時間は5分程度。自然によくなる。健診は受けているが血圧も脂質も血糖値も正常である。」この胸痛の原因は何でしょうか? と尋ねてみます。

ChaGPTは狭心症の可能性を挙げてきますが、冠攣縮性狭心症という冠動脈が痙攣するタイプの発作はありうると述べています。そのため、質問者が「仕事のストレスはない、喫煙もない」と追加して述べると、狭心症である可能性を「まれ」としてかなり低く評価してきます。そのまれな病態でも心配する人もいるので診療所の受診はよいのですが、「異常なし」に近寄ることで心配が減り、胸痛が出なくなることもあります。医療機関を受診する前にこのような質問をChatGPTに投げかけることは意義のあることと思います。

質問2.「最近動悸がひどいのですが、心臓が心配です。大丈夫でしょうか?」

この質問だけ投げかけると、鑑別が5つほど出てきますが、さらにChatGPTは以下の症状を伴う場合は、救急外来を含め早急に受診してください。と述べて4つの症状を挙げています。

  • 胸の痛み・圧迫感
  • 息切れ、呼吸困難
  • めまい、失神
  • 動悸が突然強くなり、長く続く

これに当てはまる場合には循環器診療を受ける必要があると説明されました。

そして、「もしよければ、動悸が起こるタイミングや持続時間、脈の速さ、同時に出る症状などを教えていただければ、受診の緊急度や考えられる原因について、もう少し具体的にお話できます。」と親切に問いただしてきたので以下のように答えました。

「動悸は安静で起こり、運動時や仕事中はありません。胸の痛みや圧迫感はありません。めまいもありません。脈拍はそれほど早くなく、むしろ強く打つ感じです。」

すると、  不整脈(期外収縮)、自律神経の変動、ストレスや睡眠不足、カフェイン・アルコールの影響 を原因として挙げてきました。それぞれに具体的な説明がついていました。結論として、「現時点で重症の心疾患の兆候は少なそう」というコメントが得られました。もちろん、これに当てはまらない場合や心配であれば医療機関を受診する必要はありますが、ここで「受診しないで経過をみよう」という選択もありだということがわかるでしょう。

 これらのやりとりは診療所に来た時に医師と患者が行う会話と全く同じものです。診療所では心電図をとるかもしれません。ただ、脈を見ればだいたい異常は見抜けるので、患者さんの症状は脈を自分でとった時の様子を聞かせてもらえれば十分だと思います。

逆にかなり深刻な訴えをしたらどう答えてくれるでしょうか?

「動悸は安静でおこりますが、起こるとかなり脈拍が早くなり、血圧を測定した時に表示される脈拍数が172でした。動悸は10分ほどで自然に止まりましたが、このような動悸がまたでるかもしれないと不安です。その時に目の前が暗くなったり、失神したりはしていません。」そう、回答すると、

発作性上室性頻拍(PSVT)や心房粗動・心房細動の発作の可能性を回答しました。これは医師の判断と全く同じものです。これによりすぐに循環器科を受診する必要性を認識できると思います。

今回は、ChatGPTにより、自分の症状を正直に説明すると的確な答えが返ってくることをお話ししました。場合によっては具体的な症状やご自身の背景について説明することも大切です。何か症状があって受診したいけど迷っているという方には是非ChatGPTに診てもらってください。

  次回は腹部の症状について述べたいと思います。

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