医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.10 健診で何がわかるか?  その2 心電図・胸部X線検査について

前回のコラムNo9からの続きです。現在、私の住む杉並区では心電図実施の条件として高血圧あり、胸部症状ありの患者さんとなっております。健診は日常の症状や診察所見では気づかない異常を見つけることも目的とされているにも関わらず、行政の予算の関係でこのような切り捨てが行われていることは残念です。

心電図:心臓が発している電気の流れを捕らえ、心臓に異常が無いかどうかを観察する検査です。まず心房から電気を発しp波という波が出ます。それが心室に伝わりQRS波という波形が出るのですが、p波は心臓の基本的な調律を示し、QRSは心筋内の伝導を見ることができます。p波が不規則に出ている場合や出ていない場合には洞性不整脈が考えられます。p波が細かい波のようになっている場合には心房細動または心房粗動という不整脈と診断されます。p波とQRSの途中の間隔が長い場合には房室ブロックと診断されます。このように心電図から心臓の各パーツの電気の流れを見ることができ、徐脈性不整脈や頻脈性不整脈、心房粗細動、心筋内伝導障害(右脚ブロック、左脚ブロックなど)の診断が可能です。またこれら基本的な心臓の電気的興奮を示す波形以外に出てくる波のことを期外収縮といい、これはしばしば健診で指摘される不整脈です。

QRSの後にくるST部分の波形も心臓病の診断に有用です。心筋虚血、左心室肥大や心筋症と言われる心臓病が疑われる所見が出た場合には専門医の診察が必要です。

また、健診の心電図で身に覚えのない心筋梗塞が見つかることがあります。糖尿病患者が多いのですが発症時に痛みを感じないために梗塞を起こしても大事に至らなかったと推測されます。しかし、梗塞とわかれば早めに治療が必要です。すぐに専門医を受診するよう薦められます。

心電図異常と言われても治療を要するとは限りません。心電図結果から、様子を見て良いのか、新たな検査を必要とするのかについては担当医と相談しましょう。

逆に心電図が正常だからといってすべての心臓病を捕らえられるわけではありません。狭心症では運動時にのみ異常が出ることが多く、安静で検査する健診の心電図では異常が出ないことが多いと思われます。胸部症状がある場合には通常の医療機関での診察を受けて下さい。運動負荷などの負荷をかけた心電図検査が有用です。また、悪い不整脈があっても検査時には異常が出ないことがあります。何らかの症状がある場合には24時間の心電図検査が有用ですのでこちらも専門の医師と相談して下さい。

胸部X線検査:前回述べたように健診の始まりは結核の早期診断でした。X線検査はもっともその診断に貢献した検査です。この名残から結核が珍しくなった現在もこの検査が健診として使用され、オプションとして「肺癌検診」にまでその診断範囲を広げています。それではX線検査でどこまで何が診断できるのでしょうか?一般診療では肺炎や心不全、気胸などといったある程度臨床症状を伴う疾患の診断に用いられていますが、無症状の人に行ってわかることと言えば、ある程度増大した肺癌などの腫瘍、ある程度拡張した胸部大動脈瘤、古い結核の跡などが上げられます。喫煙歴の長い人ではCOPDと言われる閉塞性肺疾患(肺気腫が例として上げられます)を持っている可能性がありますが、胸部X線ではある程度進行していないと診断できません。長い喫煙歴がある人で息切れなどがあれば健診の結果に関わらず専門医を受診することをお勧めします。

肺腫瘍については原則正面像一方向の写真1枚を撮影しますが(これまでは側面を追加していました)、肋骨、心臓、血管の影で腫瘍が隠れて見えないことがありますし、最近増えているすりガラス状の肺癌は画像に写らないことが多いです。つまり従来の目的だった結核が影を潜める今、X線検査をスクリーニングに使う限界が見えてきて見直しが必要な時期にきています。また、問題点としてX検査は撮影条件により画像の質が担保できないことがあります。デジタル画像で読影する場合には悪条件であっても補正することで画質を改善することができますが、アナログで読影する場合には見える影も見えないということが起こりえます。そのためCTを用いた検診が良いと叫んでいる人たちもいます。確かに3Dで撮影できるCTでは何かの陰に隠れて見えないということはありません。最近のCTは性能を増し、低被曝で高分解能の画像を提供します。しかし、治療を要しない古傷や消えていくだろう炎症なども捕らえてしまい、いわゆる「見えすぎ」る偽陽性に惑わされる可能性があります。また何と言ってもコストがかかり一般健診には向いていません。このような中、杉並区では胸部の何らかの異常を調べる目的としての胸部X線健診を来年度から廃止して、肺癌検診を希望する人のみX線検査を行うことになりました。区で肺癌検診を受ける場合にはデジタル画像を医師会の委員の複数の先生で読影会を開き、読み落としがないように努力しています。そこで異常がありそうならCTを勧められると思います。

 癌検診については賛否両論があります。肺癌については早期発見が生命予後を改善するという明確なエビデンスがありません。従って詳しければ詳しいほど良いとは思えません。私は偽陽性により癌ノイローゼをわずらった多くの人を見てきました。ある程度精度が担保できるのならX線検査で明確になった患者さんのみ精査するという考え方も正当であると考えています。

次回は「心不全とはどんな病気か」をお送りします。

コラムNo.9 健診で何がわかるか? その1 身体所見・血液検査

今回は皆様になじみの深い「健診」についてお話しします。「健診」とは健康診断の略で個人の健康の状態を調べるため診察したり検査したりする診療で、定期的に地域診療所や会社、学校などで実施されています。「検診」という言葉がありますが「検」の字が異なります。こちらの検診は健診で異常が出た場合の2次検査や癌検診などの特定な疾患の検査・診察を意味します。公的な健診には1)成人等健診(2)国保特定健診(3)後期高齢者健診 があります。日本で健診が根付いたのは昔流行した結核予防が元になっています。進行すると大流行になりますので定期的に問診や胸部X線を撮ることで早期発見を目指し、流行を阻止する役割を果たしました。それでは結核がほとんど無くなった現代で健診はどんな意味があるのでしょうか? 現在、健診のメニューに含まれているのが問診・医師の診察、血圧・身体測定、血液検査、尿検査、心電図、X線検査です(年齢により出来ない検査もあります)。それぞれの検査についてその役割を見ていきましょう。

問診・身体所見:眼瞼所見から貧血や黄疸がないかどうか、胸部聴診で肺や心臓の状態、腹部診察で腫瘤や動脈瘤などがわかることもあります。足のむくみや皮膚の異常も何らかの病気を示す可能性があります。

血圧・身体測定:日本でも多くの患者が持つ高血圧症は健診で発見される確率が大変高いです。高血圧は放っておくと心筋梗塞や脳梗塞・脳出血などの将来の心血管病変の元になります。基準値を超え、医療機関受診の判定がついたら必ず行くようにしましょう。

10年前からメタボ健診の名のもとに腹囲を測定するようになりました。大きなお腹は内臓脂肪が沢山蓄積していてそれが動脈硬化の原因になり種々の心血管病変を起こすというデータのもとに健診に取り入れられたのです。「メタボ」とはmetabolic syndromeの略語で、日本語では「内臓脂肪症候群」といいます。いつしかメタボが流行語となりメタボ=お腹の大きなおじさん、みたいな意味にすり替わってしまいましたが腹囲が大きいだけではメタボとは言えません。これに高血圧や以下に示す血液検査で脂質異常、血糖値の異常などを組み合わせることで診断します。メタボが健診に導引されたのは、日本が食生活の欧米化に伴い内臓肥満者が増加し、心血管病が増加することを予防するねらいがあります。太っていることが悪いというよりは、あくまでも脂質異常、高血圧、高血糖が悪いのですが、これらは肥満の改善(dietや運動による減量)によって是正できる可能性がありますよ、というのがこの健診の意義です。現在、医療機関ではメタボに対して特定保健指導といって、生活習慣の改善を促すプログラムを受けてもらうサポートも行っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html

血液検査:大ざっぱに言うと貧血、肝機能障害、腎機能障害、糖尿病、脂質異常の診断ができます。いずれの疾患も進行しないと症状が出てこないので年に1回受診していれば早期発見の可能性が高まるでしょう。貧血については、健診だけで原因がわからなければ2次検査が必要になります。その他の疾患は血液検査所見で診断が可能なので早期の治療介入ができることになります。中でも私が最も重要と考えているのが糖尿病です。進行すると様々な合併症で生活の質(QOL)が大きく低下する疾患ですが、医療の介入で合併症の阻止が十分可能です。糖尿病に高度の腎障害を合併して透析治療を行っている患者さんの多くが、早期にきちんと血糖管理を行わなかったことに後悔しています。定期健診は糖尿病の発症を知る最も重要な機会として利用してください。健診は一般に生活習慣病を見つけることにたけていますが、これは将来のリスクに備えるものですので特に若い方は少しの異常にも注視してもらいたいと思います。高齢者については検査内容によっては異常値が出ても放っておいて良いものもあります。医療機関を受診して経過観察でよいのか治療を受けた方がよいのか相談してください。

尿検査:尿中の蛋白、糖、潜血を定性的に測定しています。尿蛋白は腎障害の指標となり1+以上では腎障害が疑われます。血液データには表れない早期の腎障害を見つけるのに有効ですが、いわゆる腎後性の障害(尿管結石や膀胱炎、尿道炎など)に伴う蛋白陽性もありますので症状も考慮して間隔をおき再検査をお薦めします。尿糖は糖尿病で検出されますが、血液データの方が診断的には優れています。すでに診断された方の経過観察には有効です。潜血反応は腎臓以下の尿路系の感染や結石、悪性腫瘍などで上昇します。臨床所見に乏しい場合には定期的に再検査して異常が出るようなら悪性腫瘍の精査が必要です。

次回のコラムは「健診でなにがわかるか? その2 心電図・胸部X線検査について」 です。

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