医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.11 心不全とはどんな病気か

「心不全」と言う言葉は日常よく聞かれると思います。文字通り、心臓が機能を失う状態と考えて良いでしょう。以前、死亡診断書に書かれる死因で「急性心不全」と書かれていることがしばしばありました。人間死ぬ時は心臓が停止するので心不全は当たり前のことです。死因不明な時にこの病名を書いていたと思われますが、現在ではこの病名をつけることは禁止されています。心停止に至った原因となる疾患名を死因としなければなりません。今回は全身の病気があって二次的に心停止するのではなく、心臓そのものが原因となって機能不全に陥る「心不全」についてお話します。一般に心不全の症状で典型的なのが「息切れ」です。特に歩行時など身体活動によって症状が悪化します。一見、呼吸器疾患のような症状がなぜ心不全によっておこるかを説明しましょう。まずは人の体循環から説明します。人間の血液の循環は 心臓左心室→大動脈→全身臓器(動脈系)→(一部腎臓から排泄)→(静脈系)→右心房→右心室→肺動脈(静脈系)→呼吸から得られた酸素をとりいれる→肺静脈(動脈系)→心臓左心房→左心室→・・・ これを繰り返します。重篤な心不全に陥る原因となるのが左心室の機能不全です。左心室は血液を身体に送る大事な部分で心臓の中でも最も厚い筋肉で構成されています。皆さんが測定している血圧の収縮期血圧(上の血圧)はこの左心室内の圧力とほぼ同じです。左心室の力が弱くなり(収縮不全)、ある一定の血圧が上がらなくなり、動きが悪くなることで1回の拍出量が低下し、体循環が悪くなります。左心室から十分な血液が送り出せないと徐々に手前の左心房に血液が淀んできます。やがて肺静脈、肺内に血液が淀むことになり、肺内に血液が鬱滞すると酸素を血液に取り込めなくなります。その結果呼吸が苦しくなるのです。身体活動が高まると酸素需要が高まるのですが、それに見合う酸素が取り込めなくなるためにより呼吸障害が強くなります。これが心不全に伴う息切れの原因です。左心室収縮不全だけでなく拡張不全でも同じようなことが起こります。左心室は拡張するときに左心房から血液が流入しますが拡張不全があると血液が左心室に流れ込みにくくなります。それにより同様に肺内に血液が鬱滞するようになります。心臓弁膜症でも心不全が起こります。弁が狭窄したり、弁から血液が漏れたりする(閉鎖不全)程度が強いと結果的に肺内鬱血が起こります。一方、右心室の機能不全があると肺内鬱血はないのですが全身から血液が返って来にくくなるため、足などにむくみが現れます。肺と肺を包む胸膜の間の胸腔というスペースに水がたまるものを胸水と呼びますが、右室不全(右心不全)を原因とすることが多いと思われます。このように心不全とは心臓の機能異常に伴う循環不全といい変えることができます。

それでは左心室機能が低下して起こる左心不全の原因は何でしょうか? わかりやすい病気では心筋梗塞があります。心筋の一部が血管の閉塞により壊死することで心筋のポンプの力が弱まってしまいますが、広範に壊死してしまうと心不全になりやすくなります。心筋症と言われる心臓病も心不全を起こす代表的な疾患です。特に拡張型心筋症と言われる左心室が拡大し、収縮力も低下する疾患は心臓移植の対象疾患として最も多く見られます。肥大型心筋症は、収縮力はそれほど落ちませんが拡張機能が落ち、心不全を起こす可能性があります。この疾患はどちらかというと致死性の不整脈を誘発することが問題です。しかし、急性心不全で最も救急で受診する患者さんが多いのが高血圧性心不全といわれる高齢者で多く見られる疾患です。左室収縮力はそれほど低下していませんが、拡張能の低下が心不全の原因です。長いこと高血圧に曝されて心筋が厚くなり、やがて心筋線維化が起こり、拡張能を中心とする心機能低下が見られます。中には拡張型心筋症と区別がつかないような左室拡大と収縮不全に陥る例もみられます。近年、高齢者が増加する中、この心不全患者が増えており、「心不全パンデミック」という言葉も切られるようになってきました。次回は増え続ける心不全への対策について説明致します。

コラムNo.10 健診で何がわかるか?  その2 心電図・胸部X線検査について

前回のコラムNo9からの続きです。現在、私の住む杉並区では心電図実施の条件として高血圧あり、胸部症状ありの患者さんとなっております。健診は日常の症状や診察所見では気づかない異常を見つけることも目的とされているにも関わらず、行政の予算の関係でこのような切り捨てが行われていることは残念です。

心電図:心臓が発している電気の流れを捕らえ、心臓に異常が無いかどうかを観察する検査です。まず心房から電気を発しp波という波が出ます。それが心室に伝わりQRS波という波形が出るのですが、p波は心臓の基本的な調律を示し、QRSは心筋内の伝導を見ることができます。p波が不規則に出ている場合や出ていない場合には洞性不整脈が考えられます。p波が細かい波のようになっている場合には心房細動または心房粗動という不整脈と診断されます。p波とQRSの途中の間隔が長い場合には房室ブロックと診断されます。このように心電図から心臓の各パーツの電気の流れを見ることができ、徐脈性不整脈や頻脈性不整脈、心房粗細動、心筋内伝導障害(右脚ブロック、左脚ブロックなど)の診断が可能です。またこれら基本的な心臓の電気的興奮を示す波形以外に出てくる波のことを期外収縮といい、これはしばしば健診で指摘される不整脈です。

QRSの後にくるST部分の波形も心臓病の診断に有用です。心筋虚血、左心室肥大や心筋症と言われる心臓病が疑われる所見が出た場合には専門医の診察が必要です。

また、健診の心電図で身に覚えのない心筋梗塞が見つかることがあります。糖尿病患者が多いのですが発症時に痛みを感じないために梗塞を起こしても大事に至らなかったと推測されます。しかし、梗塞とわかれば早めに治療が必要です。すぐに専門医を受診するよう薦められます。

心電図異常と言われても治療を要するとは限りません。心電図結果から、様子を見て良いのか、新たな検査を必要とするのかについては担当医と相談しましょう。

逆に心電図が正常だからといってすべての心臓病を捕らえられるわけではありません。狭心症では運動時にのみ異常が出ることが多く、安静で検査する健診の心電図では異常が出ないことが多いと思われます。胸部症状がある場合には通常の医療機関での診察を受けて下さい。運動負荷などの負荷をかけた心電図検査が有用です。また、悪い不整脈があっても検査時には異常が出ないことがあります。何らかの症状がある場合には24時間の心電図検査が有用ですのでこちらも専門の医師と相談して下さい。

胸部X線検査:前回述べたように健診の始まりは結核の早期診断でした。X線検査はもっともその診断に貢献した検査です。この名残から結核が珍しくなった現在もこの検査が健診として使用され、オプションとして「肺癌検診」にまでその診断範囲を広げています。それではX線検査でどこまで何が診断できるのでしょうか?一般診療では肺炎や心不全、気胸などといったある程度臨床症状を伴う疾患の診断に用いられていますが、無症状の人に行ってわかることと言えば、ある程度増大した肺癌などの腫瘍、ある程度拡張した胸部大動脈瘤、古い結核の跡などが上げられます。喫煙歴の長い人ではCOPDと言われる閉塞性肺疾患(肺気腫が例として上げられます)を持っている可能性がありますが、胸部X線ではある程度進行していないと診断できません。長い喫煙歴がある人で息切れなどがあれば健診の結果に関わらず専門医を受診することをお勧めします。

肺腫瘍については原則正面像一方向の写真1枚を撮影しますが(これまでは側面を追加していました)、肋骨、心臓、血管の影で腫瘍が隠れて見えないことがありますし、最近増えているすりガラス状の肺癌は画像に写らないことが多いです。つまり従来の目的だった結核が影を潜める今、X線検査をスクリーニングに使う限界が見えてきて見直しが必要な時期にきています。また、問題点としてX検査は撮影条件により画像の質が担保できないことがあります。デジタル画像で読影する場合には悪条件であっても補正することで画質を改善することができますが、アナログで読影する場合には見える影も見えないということが起こりえます。そのためCTを用いた検診が良いと叫んでいる人たちもいます。確かに3Dで撮影できるCTでは何かの陰に隠れて見えないということはありません。最近のCTは性能を増し、低被曝で高分解能の画像を提供します。しかし、治療を要しない古傷や消えていくだろう炎症なども捕らえてしまい、いわゆる「見えすぎ」る偽陽性に惑わされる可能性があります。また何と言ってもコストがかかり一般健診には向いていません。このような中、杉並区では胸部の何らかの異常を調べる目的としての胸部X線健診を来年度から廃止して、肺癌検診を希望する人のみX線検査を行うことになりました。区で肺癌検診を受ける場合にはデジタル画像を医師会の委員の複数の先生で読影会を開き、読み落としがないように努力しています。そこで異常がありそうならCTを勧められると思います。

 癌検診については賛否両論があります。肺癌については早期発見が生命予後を改善するという明確なエビデンスがありません。従って詳しければ詳しいほど良いとは思えません。私は偽陽性により癌ノイローゼをわずらった多くの人を見てきました。ある程度精度が担保できるのならX線検査で明確になった患者さんのみ精査するという考え方も正当であると考えています。

次回は「心不全とはどんな病気か」をお送りします。

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