皆様は不整脈、と聞くとすべて心臓の病気と思われがちですが、放置してもよいものと悪いものがあります。実は不整脈は放置しておいてよいものがほとんどで、一部に悪性のもの(治療を要するもの)があります。それを見極める必要があるのです。単純に不整脈の種類で良悪性の区別をしてみましょう。
1.良性の不整脈(図1)
①単発で起こる心房性期外収縮、単発で1日1万回以下の心室性期外収縮(図A)
②数秒から数分持続し、且つ比較的心拍数がゆっくり(130/分未満)で自然停止する心房性頻拍で無症状のもの(図B1,2)。
2.良悪性の区別が難しい不整脈(図2)
①1日1万回以上起こる心室性期外収縮
②2連発~30秒以下の心室性期外収縮・非持続性心室頻拍
③数分以上続き、自然停止する心房頻拍で心拍数が130-150/分。
3.悪性と思われる不整脈(図3)
これらは心筋症などの心臓の病気が基礎疾患として存在する可能性があるので心臓の画像検査(エコーやMRIなど)で精査を要します。基礎疾患がなければ基本的に経過観察です。③で動悸の症状が強い場合には、心拍数を抑えるような薬物療法を開始した方がよい場合があります。これらの不整脈が発見されたら必ず専門医に診てもらいましょう。
①(発作性)心房細動
脈がばらばらに乱れてしまう不整脈です(図3D)。どなたでも起こりうるありふれた不整脈ですが、悪性に属し、基本的に治療を要します(図A)。一過性、断続性のものを発作性と言います。1回でも心房細動が起これば注意する必要があります。発作性の中で薬物療法が必要かどうかの判断基準としてCHADS2スコアがあります。
このスコアで1点以上(一つ以上のリスクがある場合)には抗凝固療法という血液サラサラにする薬を常用する治療が必要です。理由として心房細動が左心耳という左心房の一部に血栓を作り、それが脳の動脈を閉塞させることで脳梗塞を引き起こす可能性があるからです。故長嶋巨人名誉監督が発作性心房細動から脳梗塞を罹って半身麻痺になられたのは有名な話です。心房細動は脳梗塞になるだけでなく、将来の心不全のリスクもあり、可能であれば一過性であっても洞調律を保つ(正常調律)方がよいとされています。治療法としては薬物療法とアブレーションがあります。このように心房細動は発作性でも持続性でも治療を要する悪性の不整脈です。持続性心房細動の場合は時間が経つと正常調律に戻らない可能性が高くなります。その場合には抗凝固療法のみで経過観察となります。
②(発作性)心房粗動
心房細動と同様に、心房に血栓を作り脳梗塞の原因になります。この不整脈は細動と違って、脈をとると規則正しい。それは心房波が規則正しい頻拍(300/分くらい)を起こしており、その心房は2-5心房調律毎に1回心室につながって心拍は60-150になります。供覧の心電図(図D2)は5拍に一回心室波形がでているので心拍数は約60/minです。この不整脈も抗凝固療法が必要です。また、可能であれば薬物療法やアブレーションで早めに正常調律になるよう治療することを勧めます。
③発作性上室性(心房性)頻拍症
脈拍は規則正しく打っていますが脈拍が150以上になり持続する頻拍症です。特に170くらいになると血圧が低下し、場合によっては2次的に心室細動という発作が起こり、緊急の除細動(AEDにて行う電気ショック)を要することがあります。この頻拍症は大きく分けて2種類のタイプがあり、房室結節リエントリータイプ、WPW症候群による頻拍症です。後者は心拍数が高く1度発作を経験したらすぐに医療機関を受診してください。頻拍の原因となっている回路を遮断するためのカテーテルアブレーションという治療により完治します。前者の頻拍症はまず薬物療法を行い、それでも発作が起こるようならアブレーションを検討します。
④持続性心室頻拍症
心室性期外収縮が30秒以上で連発し続けた場合、持続性心室頻拍と呼びます(図B)。これには特発性という基礎心疾患のない場合と心筋症などの基礎心疾患がある場合があります。前者の場合には発作が起こっても血圧が保持されることが多く、突然死のリスクは低いですが動悸がひどく、長時間続くと血圧が下がり始め気分不快になり、発作の頻度が高くなると心機能が低下することがあります。従って、頻度が高く症状が強い場合には発作の源になっている場所をアブレーションで焼く治療が奨励されます。一方、心筋症の基礎疾患(拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドーシスなど)がある場合にこの頻拍が起こった場合には抗不整脈薬や、アブレーションまたはICD*(植え込み型自動除細動器)の植え込みが検討されます。特に、失神を伴う発作があった場合にはICDが第一選択となります。
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