皆様は暑い時期に食中毒など胃腸炎症状に苦しむという印象があるかと思いますが、実は胃腸炎は冬が多いのです。当院でも12月ころから胃腸炎で受診する患者さんが増加しています。胃腸炎とは腹痛、嘔吐や下痢などの症状で時に脱水症状を起こして体調が不良になる病気です。患者さんに「何か思い当たるような生ものなどの食材をたべましたか?」と尋ねると「2日前に刺身をたべました。」、「2日前に賞味期限をすぎた総菜をたべました」、「2日前に生牡蠣をたべました。」など様々な回答があります。胃腸炎には大きく分けてウイルス性胃腸炎と食中毒がありますが、それを見分けるポイントについて解説いたします。
これらは似ているようで「原因・広がり方・対策」が全く違います。
① 原因の違い
| ウイルス性胃腸炎 | 食中毒 | |
| 主な原因 | ウイルス | 細菌・毒素 |
| 代表例 | ノロ、ロタ | カンピロバクター、サルモネラ、黄色ブドウ球菌 |
| 感染源 | 人 → 人 | 食品 |
ウイルス性胃腸炎=「人から人」感染
食中毒=「食べたもの」から直接胃腸を障害
② 発症までの時間
● ウイルス性胃腸炎
- 1~2日後に発症することが多い。
- 「昨日生ものや半生ものを食べたから?」→ 実は関係ないことが多い
● 食中毒
- 数時間~半日以内に発症することが多い(黄色ブドウ球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌など)。生の鶏肉でよくあるカンピロバクターで2-5日後の発症が有名です。
- 「同じものを食べた人が同時に症状」が典型
③ 症状の特徴の違い
ウイルス性胃腸炎
- 嘔吐・下痢が中心で、発熱は軽度~中等度。腹痛は比較的軽いのが特徴。
- 家族内で次々に発症する。
食中毒
- 強い腹痛があり、下痢が主体(血便のことも)で発熱が高いことあり。
- 一緒に食べた人が同時に発症するのが特徴。
④ 広がり方
ウイルス性胃腸炎
- トイレ・ドアノブ・手指から拡散し、吐物・便の処理で感染拡大。家庭内・施設内で流行
食中毒
- 原因食品を食べた人のみで、人から人へは基本的に広がらない
⑤ 治療の違い
共通点
- 治療の基本は脱水予防と症状対症療法。整腸剤がしばしば処方される。脱水で水分補給ができない場合には診療所などで点滴の治療が必要。下痢を止めるような止痢剤(ロペラミドなど)と言われる薬は禁忌。ウィルスや細菌が排泄するのを妨げてしまうため。
抗生物質
- ウイルス性胃腸炎:使わない
- 食中毒:原則使わない(例外あり)
抗生物質はほとんどのケースで不要。
⑥ 受診すべき危険サイン(重要)
以下があれば受診を勧めます。診療所で点滴による脱水の治療が必要です。
- 水分がほとんど取れない
- 半日以上尿が出ない
- 高熱が続く
- 血便
- 高齢者・乳幼児
- 基礎疾患がある方
*生牡蠣によるノロウィルス感染について
なぜ牡蠣でノロウイルスが多いのか
牡蠣は海水中の微生物を取り込む「ろ過摂食」を行うため、下水などに含まれるノロウイルスを体内に濃縮しやすいという特徴があります。見た目や匂いでは判断できない、新鮮な牡蠣でもウイルスは存在し得る、冬場はノロウイルス自体の流行期などの条件が重なり、
冬の牡蠣=ノロウイルス感染のリスク となりやすいのです。冬の時期にはなるべく生牡蠣は食べない方がよいでしょう。十分に火と通すか煮るかして食してください。
余談ですが、牡蠣を食べてノロウイルスに感染した場合、医学的には「ウイルス性腸炎」、公衆衛生的には「食中毒(ウイルス性食中毒)」の両方に該当します。
この理由は、病気の正体 が ノロウイルス感染でありながら、感染のきっかけ が食品(牡蠣)だからです。そのため、医療現場では「急性ウイルス性胃腸炎」、保健所や行政では「ノロウイルス食中毒」というように、使われる言葉が変わるのです。我々医療従事者はウィルス性腸炎としての治療や予防策(同居人への伝染予防)を行います。

