医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムNo.8 狭心症はどのように診断するのか(その2) -安易な心臓カテーテル検査やステント治療に注意-

前回のコラムからだいぶ日数が経ってしまいましたが、続きをお話します。今回の話題は冠動脈CT検査です。冠動脈は心臓に栄養を送る大事な血管でその血管が閉塞すると心筋梗塞が起こり、死に至ることがあります。最近では急性心筋梗塞になると数時間以内に緊急カテーテル治療が行われ、血管の閉塞を解除し、ステントを入れることで心筋への血液が再灌流されます。再灌流することで治療しない場合と比べて心筋梗塞の範囲が著しく縮小することが知られています。そもそも心筋梗塞になりうる冠動脈にはもともと病変があることが知られています。冠動脈のプラークと言われるものです。前回説明した負荷心筋シンチは心筋虚血状態を見つける検査でした。もちろんその検査により、すぐに治療すべき患者を見つけることが出来ますが、5年先の将来危ない血管があるかどうかの判断はできません。冠動脈CTはすぐに危険な狭窄があるかどうかの判断に加え、将来心筋梗塞になるリスクについてもある程度予想し、予防的な治療を考慮することができます。具体的には脂質の豊富なプラークの存在です。CTで真っ白に見える石灰化プラークは動脈硬化のなれの果てで、強い狭窄を作っていない限りは心筋梗塞にはなりにくいとされています。ところが脂質に富んだプラークは破れやすく、破れると中から様々な炎症物質や脂質、血栓が血管を塞いで急性心筋梗塞になります。CTは現在、かなり高速で撮影が可能になり造影剤も少なく良質な画像を得ることができるようになりました。その結果プラークの質の評価が可能になったのです。いわゆる脂質に富んだプラークはCT値と言われる見た目の濃度が低くなり、黒っぽい色になります。石灰化とは対照的です。その容量が多ければ多いほど危険といえるでしょう。狭窄も強く、脂質に富んだプラークであれば危険信号といって良いと思います。前回説明した心筋虚血が出るほどの狭窄があれば近いうちに血行再建(ステント治療やバイパス手術)、狭窄が軽ければ薬物治療が勧められます。冠動脈危険因子とされる高血圧、糖尿病、脂質異常症があればその治療が優先されます。最近では特に脂質プラークがあり、狭心症で治療後の人には2次再発予防として悪玉コレステロール(LDL)を70未満にすることが望ましいとされています。この治療によりプラークが破綻しにくくなることが知られています。このように治療に結びつく検査所見が得られるのがCTの利点です。但しCTには弱点もあります。直ちに血行再建術(ステントなど)の適応になる冠動脈狭窄と虚血の判断が正確にできないことです。一般的にCTの方がカテーテルより狭窄が強く見えるために、その所見から引き続きカテーテルを行ってステントを入れてしまうという過剰診療が繰り返し行われているのが現状です。特に石灰化を伴う病変は狭窄を評価することが困難なことがあります。厚労省は医療費のかかるステント治療を適切に行ってもらうために事前に負荷心筋シンチなどで虚血を評価したり、カテーテル中に負荷試験で得られるFFRにより虚血を判断したりしてからステントを入れるように勧告を出していますがなかなか徹底されていないようです。適応のないステント治療は医療費がかかるだけでなくその後再狭窄や再閉塞のリスクを伴う他、ステント内血栓を予防するための抗血栓療法を行わなければならず出血合併症などのリスクも伴います。この治療を行うと言われた場合には代わる治療がないことを確認してから同意するようにしましょう。当院では前回も申し上げた通り、CTを先に実施した場合、治療を要する有意な狭窄が疑われた場合には負荷シンチや負荷PET検査を実施し、適応を定めてから他院でカテーテル検査をお薦めすることにしております。

次回は「健診で何がわかるか?」についてお伝えします。

コラムNo.7 狭心症はどのように診断するのか(その1)

前回、狭心症のエビデンスについて一部お話したので引き続き、狭心症のお話をしましょう。狭心症とは心臓を栄養する冠動脈という血管が高度に狭窄して心臓に十分血流が行き渡らず心臓が悲鳴を上げる状態のことを言います。悲鳴を上げる場合、たいていは「胸が痛い」と感じますが、人によっては「左肩に違和感がある」、「息苦しい、息が吸えない感じ」など人によって症状の感じ方が異なります。これらの症状がどんどん悪化している場合には不安定狭心症といって狭窄病変が進行している可能性があります。不安定狭心症はやがて急性心筋梗塞を起こしやすい状態なので、少なくとも入院して安静にする必要があります。循環器専門病院であればすぐに心臓カテーテルを用いた冠動脈狭窄を広げるバルーンとステントの治療を行います。不安定狭心症では薬物療法よりステント治療が明らかに有効です。

逆に狭窄病変が進行なく安定している場合には安定型狭心症と定義しています。安定型の場合、症状はほとんど労作で起こります。運動により心臓への血液供給の需要が増えますが、狭窄があると血液が需要に応えられず労作時のみ心筋虚血という状態になります。従って狭心症があるかどうかを調べるには運動負荷試験を行います。負荷を行う場合には必ず心電図と血圧計を装着し、軽い負荷から段階的に重い負荷にアップしていき症状が起こるかどうかを確認します。私はこの運動負荷を行い、運動のピークでアイソトープという放射性物質を注射して心筋血流を画像で見て診断する心臓核医学検査(心筋シンチ)を専門としています。狭心症患者を大量に抱える東京女子医大で年間2000例近くの症例を20年に渡り経験を積みました。患者さんの検査準備をしながら患者さんと対話したりカルテをcheckしたりしながら情報を得、運動をしてもらうことで日常生活に十分な体力を持っているのか、心臓ではなく肺機能が悪いのかどうかなどを把握することが可能です。現在当院で狭心症が疑われる患者さんがいれば、女子医大や私が半日非常勤勤務をしている立正佼成会病院に来てもらい検査を行っています。運動負荷検査は心臓病の診断の基本なのですが、近年、循環器医はこの検査をおろそかにする傾向にあります。すぐに心臓カテーテル検査を行い白黒つけようとしていますが、カテーテル検査のみで判断しようとすると過剰診療が増加します。現在は生理的狭窄を調べてからステント治療の適応を決めることになっており、カテーテルで冠動脈内圧を測定して算出するFFRという指標をみながら治療することが推奨されています。しかし、ここで治療の目安とされるFFR<0.80はかなり甘い指標といえます。というのもFFR0.8の狭窄レベルでは実際の狭心症は起こらないのです。ステントを入れないとその後の心血管イベントに左右されるFFRレベルは<0.7というデータを出す研究も散見され、その閾値をよく反映しているのが負荷心筋シンチで示される虚血のサインです。私は負荷シンチを行って虚血を判断し、その結果ステントの適応と判断した限られた患者さんのみをカテーテル検査に紹介しています。これにより無駄に侵襲性のあるカテーテルを避け、高い医療費をかけることなく済みます。負荷シンチも高額ではありますが1泊入院してカテーテル検査を行うよりはずっと安価で非侵襲的です。心臓核医学検査(心筋シンチ)に興味を持たれた方は学会ホームページをご参照ください。

http://www.jsnc.org/jsnc-seminar/001

一方、狭心症の検査として近年増加しているので冠動脈CT検査です。造影剤を静脈から入れ、心電図に同期させて撮像することで静止した状態の造影冠動脈を撮影することができます。これにより冠動脈の内腔の狭窄などがわかる検査です。カテーテル検査に変わる検査として利用されていますが、CTの話題は次回にしましょう。

次回は「狭心症はどのように診断するのか(その2)」として冠動脈CTを中心にご紹介します。

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