医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラム24 現在の医療事情とこれからの医療への向き合い方 No.1

どんどん膨らむ日本の医療費

日本の医療は海外と比べて非常に優れていて手厚いといわれています。医療機関へのアクセスの良さ(医療機関が多い、すぐに診てもらえる)、医療機器の設備が多く、検査や治療までの待ち時間が短い、というのが主な理由です。東京など大都市ではCTやMRI検査が緊急でなくとも当日してもらえる場合もあり、このような状況は他の国ではありえないでしょう。診療所も他の先進国では開業医は家庭医(かかりつけ医)に属し、検査設備が乏しくX線検査や血液検査ができない診療所も多いと聞きます。その場合、専門の病院に紹介して実施してもらうケースが多いようです。日本のように開業医で検査してその日に診断まで確定することは難しいです。ましてや日本のように個人診療所でMRIやCTを備えているところは皆無です。日本も現在はある一定規模の病院には紹介状がないといけないシステムになってきましたが、診療所レベルでは自由アクセスですので住まいの地区関係なくどこでも受診することができます。海外では受診できる家庭医も決まっているので自由アクセスは患者さんにはメリットが大きいと思います。

このように日本の医療事情は他の国に比べて恵まれていると言えるでしょう。しかし、その反面、医療費がどんどん膨れ上がってきています。日本の医療費は2025年約45兆円で、20年前(2005年)の33兆円から1.4倍に増加しています。対GDP比でも20年間で7.8から12%に増加しており、医療費の占める割合自体も増加傾向にあります。この状態が続けば日本のGDPの増加が冷え込んでいる現状を考えると医療費ばかりが上がってきて日本経済そのものの破壊の原因となりかねません。このコラムでは医療費高騰の原因とこれからの対策を考えてみたいと思います。

日本の医療費高騰の原因

  • 新しい質の高い高額医療の増加

これは世界的に共通した理由です。遺伝子治療、癌治療や免疫療法などの分野で高額な薬が開発され、多くの人に投与されるようになり、高額医療が増加しています。希少疾患といわれる病気の治療では日本円で1億円以上かかる薬もあります。関節リウマチやアトピー性皮膚炎など非常に多くの患者さんに対しても近年、有効性の高い高額な注射薬が登場し、月12万円近くかかります(3割負担で3-4万円)。以前の飲み薬とくらべて10倍にも及びますが、このような慢性疾患は一生ものですので全体の医療費を引き上げる原因となっています。これは一例ですが、各種抗がん剤も新たな高い薬が登場していますので今後の医療費上昇は必須です。これらの医療費の上昇は医療の質が上がるという意味では喜ばしいわけで、削減することはできません。国はこの状況に対して製薬メーカーに薬価の減額を申し入れて対応しています。

  • 高齢化社会

これも世界共通の問題でしょう。①で示した高額な医療も増えており、以前なら治療できない疾患が直せるようになってきています。それにより人が長生きできるようになりました。しかし、治療は一度だけではなく継続的に行われます。高い薬を常用する場合もあり、少なくとも長期にわたり通院も必要ですので、そのたびに医療費がかかります。病気は年齢に伴い増加していきますので、長生きする人が増えるに比例して医療費がかさんでくるのは必至です。

  • 診療所・病院数の増加と高額医療設備の増加

医療施設や医療機器が増加することは患者にとってはアクセスの良さや利便性からしても大変喜ばしいことなのですが、一方で医療がその分、分散される傾向があり、非効率に医療原資が利用されることになります。特に都市部の医療機関数は非常に密になっており、それぞれが患者獲得に躍起になっています。専門性の高い医療機関も増えており、患者はそれぞれの医療機関に分散して診療を受けます。そのたびに初診料や再診料がかかります。画像検査専門のクリニックにも紹介受診するとそこでも検査+診療代がかかります。また、最近は医療材料費自体が高騰したり、スタッフの人件費が上がったりしていますが、診療代そのものは増額されていないので病院のほとんどが赤字経営になっています。この対策として病院側はどうしても「念のため」に過剰な診療になる傾向があります。私の医院から患者を紹介してお返事を読むと、治療対象以外の予想外の治療が追加されていることがあり、誤ってはいないがそこまでやらなくても、と思うことが少なくありません。フリーアクセスという選択肢の多い日本の医療制度だとこのようなことが起こるのは当然と言えるでしょう。海外の先進国ではこのアクセス自体を制限して結果的に医療費が削減されています。日本でも今後は同じ地域には同種の診療所や病院が制限される時代がくると思います。そうでないと競争が激しくなり共倒れの危機さえ起こります。歯科診療所ではすでにそのような現象が起こっていますので、強制的に診療所を分散させることは重要だと思われます。

次回コラム25では医療費増加の対策について述べます。

コラム23 不整脈の話 ― 良い不整脈と悪い不整脈について

皆様は不整脈、と聞くとすべて心臓の病気と思われがちですが、放置してもよいものと悪いものがあります。実は不整脈は放置しておいてよいものがほとんどで、一部に悪性のもの(治療を要するもの)があります。それを見極める必要があるのです。単純に不整脈の種類で良悪性の区別をしてみましょう。

1.良性の不整脈(図1) 

①単発で起こる心房性期外収縮、単発で1日1万回以下の心室性期外収縮(図A)

②数秒から数分持続し、且つ比較的心拍数がゆっくり(130/分未満)で自然停止する心房性頻拍で無症状のもの(図B1,2)。

2.良悪性の区別が難しい不整脈(図2)

①1日1万回以上起こる心室性期外収縮

②2連発~30秒以下の心室性期外収縮・非持続性心室頻拍

③数分以上続き、自然停止する心房頻拍で心拍数が130-150/分。

3.悪性と思われる不整脈(図3)

これらは心筋症などの心臓の病気が基礎疾患として存在する可能性があるので心臓の画像検査(エコーやMRIなど)で精査を要します。基礎疾患がなければ基本的に経過観察です。③で動悸の症状が強い場合には、心拍数を抑えるような薬物療法を開始した方がよい場合があります。これらの不整脈が発見されたら必ず専門医に診てもらいましょう。

①(発作性)心房細動

脈がばらばらに乱れてしまう不整脈です(図3D)。どなたでも起こりうるありふれた不整脈ですが、悪性に属し、基本的に治療を要します(図A)。一過性、断続性のものを発作性と言います。1回でも心房細動が起これば注意する必要があります。発作性の中で薬物療法が必要かどうかの判断基準としてCHADSスコアがあります。

CHADS₂スコア計算ツール|医療情報|べーリンガープラス

このスコアで1点以上(一つ以上のリスクがある場合)には抗凝固療法という血液サラサラにする薬を常用する治療が必要です。理由として心房細動が左心耳という左心房の一部に血栓を作り、それが脳の動脈を閉塞させることで脳梗塞を引き起こす可能性があるからです。故長嶋巨人名誉監督が発作性心房細動から脳梗塞を罹って半身麻痺になられたのは有名な話です。心房細動は脳梗塞になるだけでなく、将来の心不全のリスクもあり、可能であれば一過性であっても洞調律を保つ(正常調律)方がよいとされています。治療法としては薬物療法とアブレーションがあります。このように心房細動は発作性でも持続性でも治療を要する悪性の不整脈です。持続性心房細動の場合は時間が経つと正常調律に戻らない可能性が高くなります。その場合には抗凝固療法のみで経過観察となります。

 ②(発作性)心房粗動

心房細動と同様に、心房に血栓を作り脳梗塞の原因になります。この不整脈は細動と違って、脈をとると規則正しい。それは心房波が規則正しい頻拍(300/分くらい)を起こしており、その心房は2-5心房調律毎に1回心室につながって心拍は60-150になります。供覧の心電図(図D2)は5拍に一回心室波形がでているので心拍数は約60/minです。この不整脈も抗凝固療法が必要です。また、可能であれば薬物療法やアブレーションで早めに正常調律になるよう治療することを勧めます。

③発作性上室性(心房性)頻拍症

脈拍は規則正しく打っていますが脈拍が150以上になり持続する頻拍症です。特に170くらいになると血圧が低下し、場合によっては2次的に心室細動という発作が起こり、緊急の除細動(AEDにて行う電気ショック)を要することがあります。この頻拍症は大きく分けて2種類のタイプがあり、房室結節リエントリータイプ、WPW症候群による頻拍症です。後者は心拍数が高く1度発作を経験したらすぐに医療機関を受診してください。頻拍の原因となっている回路を遮断するためのカテーテルアブレーションという治療により完治します。前者の頻拍症はまず薬物療法を行い、それでも発作が起こるようならアブレーションを検討します。

④持続性心室頻拍症

心室性期外収縮が30秒以上で連発し続けた場合、持続性心室頻拍と呼びます(図B)。これには特発性という基礎心疾患のない場合と心筋症などの基礎心疾患がある場合があります。前者の場合には発作が起こっても血圧が保持されることが多く、突然死のリスクは低いですが動悸がひどく、長時間続くと血圧が下がり始め気分不快になり、発作の頻度が高くなると心機能が低下することがあります。従って、頻度が高く症状が強い場合には発作の源になっている場所をアブレーションで焼く治療が奨励されます。一方、心筋症の基礎疾患(拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドーシスなど)がある場合にこの頻拍が起こった場合には抗不整脈薬や、アブレーションまたはICD*(植え込み型自動除細動器)の植え込みが検討されます。特に、失神を伴う発作があった場合にはICDが第一選択となります。

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