医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラム23 不整脈の話 ― 良い不整脈と悪い不整脈について

皆様は不整脈、と聞くとすべて心臓の病気と思われがちですが、放置してもよいものと悪いものがあります。実は不整脈は放置しておいてよいものがほとんどで、一部に悪性のもの(治療を要するもの)があります。それを見極める必要があるのです。単純に不整脈の種類で良悪性の区別をしてみましょう。

1.良性の不整脈(図1) 

①単発で起こる心房性期外収縮、単発で1日1万回以下の心室性期外収縮(図A)

②数秒から数分持続し、且つ比較的心拍数がゆっくり(130/分未満)で自然停止する心房性頻拍で無症状のもの(図B1,2)。

2.良悪性の区別が難しい不整脈(図2)

①1日1万回以上起こる心室性期外収縮

②2連発~30秒以下の心室性期外収縮・非持続性心室頻拍

③数分以上続き、自然停止する心房頻拍で心拍数が130-150/分。

3.悪性と思われる不整脈(図3)

これらは心筋症などの心臓の病気が基礎疾患として存在する可能性があるので心臓の画像検査(エコーやMRIなど)で精査を要します。基礎疾患がなければ基本的に経過観察です。③で動悸の症状が強い場合には、心拍数を抑えるような薬物療法を開始した方がよい場合があります。これらの不整脈が発見されたら必ず専門医に診てもらいましょう。

①(発作性)心房細動

脈がばらばらに乱れてしまう不整脈です(図3D)。どなたでも起こりうるありふれた不整脈ですが、悪性に属し、基本的に治療を要します(図A)。一過性、断続性のものを発作性と言います。1回でも心房細動が起これば注意する必要があります。発作性の中で薬物療法が必要かどうかの判断基準としてCHADSスコアがあります。

CHADS₂スコア計算ツール|医療情報|べーリンガープラス

このスコアで1点以上(一つ以上のリスクがある場合)には抗凝固療法という血液サラサラにする薬を常用する治療が必要です。理由として心房細動が左心耳という左心房の一部に血栓を作り、それが脳の動脈を閉塞させることで脳梗塞を引き起こす可能性があるからです。故長嶋巨人名誉監督が発作性心房細動から脳梗塞を罹って半身麻痺になられたのは有名な話です。心房細動は脳梗塞になるだけでなく、将来の心不全のリスクもあり、可能であれば一過性であっても洞調律を保つ(正常調律)方がよいとされています。治療法としては薬物療法とアブレーションがあります。このように心房細動は発作性でも持続性でも治療を要する悪性の不整脈です。持続性心房細動の場合は時間が経つと正常調律に戻らない可能性が高くなります。その場合には抗凝固療法のみで経過観察となります。

 ②(発作性)心房粗動

心房細動と同様に、心房に血栓を作り脳梗塞の原因になります。この不整脈は細動と違って、脈をとると規則正しい。それは心房波が規則正しい頻拍(300/分くらい)を起こしており、その心房は2-5心房調律毎に1回心室につながって心拍は60-150になります。供覧の心電図(図D2)は5拍に一回心室波形がでているので心拍数は約60/minです。この不整脈も抗凝固療法が必要です。また、可能であれば薬物療法やアブレーションで早めに正常調律になるよう治療することを勧めます。

③発作性上室性(心房性)頻拍症

脈拍は規則正しく打っていますが脈拍が150以上になり持続する頻拍症です。特に170くらいになると血圧が低下し、場合によっては2次的に心室細動という発作が起こり、緊急の除細動(AEDにて行う電気ショック)を要することがあります。この頻拍症は大きく分けて2種類のタイプがあり、房室結節リエントリータイプ、WPW症候群による頻拍症です。後者は心拍数が高く1度発作を経験したらすぐに医療機関を受診してください。頻拍の原因となっている回路を遮断するためのカテーテルアブレーションという治療により完治します。前者の頻拍症はまず薬物療法を行い、それでも発作が起こるようならアブレーションを検討します。

④持続性心室頻拍症

心室性期外収縮が30秒以上で連発し続けた場合、持続性心室頻拍と呼びます(図B)。これには特発性という基礎心疾患のない場合と心筋症などの基礎心疾患がある場合があります。前者の場合には発作が起こっても血圧が保持されることが多く、突然死のリスクは低いですが動悸がひどく、長時間続くと血圧が下がり始め気分不快になり、発作の頻度が高くなると心機能が低下することがあります。従って、頻度が高く症状が強い場合には発作の源になっている場所をアブレーションで焼く治療が奨励されます。一方、心筋症の基礎疾患(拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドーシスなど)がある場合にこの頻拍が起こった場合には抗不整脈薬や、アブレーションまたはICD*(植え込み型自動除細動器)の植え込みが検討されます。特に、失神を伴う発作があった場合にはICDが第一選択となります。

ICD(植え込み型除細動器)|不整脈科|心臓血管内科部門|診療科・部門のご案内|国立循環器病研究センター 病院

コラム22 あふれる医療ネット情報にふりまわされないために  

脂質異常編

コラム18で脂質異常に対するChatGPTのコメントを紹介しました。これはあくまでガイドラインに沿った一般論です。医師はこの一般論を参考に患者に指導や治療を行っています。しかし、ここでもいつものように「コレステロールは高い方がよい」と主張する医師がおられます。なぜこのような意見がでてくるのでしょうか? この点について考察してみます。

脂質異常とは善玉、悪玉コレステロール、中性脂肪、リポ蛋白など様々な脂質の異常を総称した用語ですが、ここでは悪玉コレステロール(LDL)が高い脂質異常と定義することにします。

高LDL血症は本当に悪なのか?

LDLが高ければ高いほど動脈硬化性疾患が増えていくことはすでに多くの研究で証明されています。とはいえ、現状基準値としてしばしば使われる140以上が必ず危険なのか、というとそうではありません。高コレステロール血症は動脈硬化性疾患を発症する一つの因子に過ぎません。多くの住民を前向きに調査して動脈硬化に関する様々な指標と疾患の発症率との関係を調べた吹田研究というのがあります。この研究から、動脈硬化危険因子を数値化した吹田スコアと心血管イベントとの関係が示されました。以下のサイトに吹田スコアが計算できるページがあるので自分のデータを入力して将来の発症リスクを見てみましょう。

吹田スコアで冠動脈疾患の発症率を確認できる計算フォーム | DataClock

ちなみに私自身の吹田スコアを計算させると46点で向こう10年間のリスクが3%と出ました。私のLDLは140-145で少し高めですが、LDLが100未満になれば発症リスクは3→1%に減るようです。この発症率の減少は臨床的に意味があるのでしょうか? 逆に、発症しない確率が97から99%に増加する、と表現を変えたらどうでしょうか?この値を見てLDLを下げるために努力したり薬物治療始めたりする価値があるかは疑問です。それでは自分がLDL 180以上だったらどうでしょうか?吹田スコアは56点となり、リスクは9%に上がります。さすがに10%に近づいてくるとやや危機感を感じますね。医療の世界では一般に将来のイベント予測が10%以上になると予防が必要という暗黙の了解があります。もちろんそれ以下で治療の介入をしてはいけないわけではありませんが、治療の費用対効果を考えると効率は悪いと言わざるを得ません。心血管疾患予防の場合、低い発症率のレベルであればまずは食事療法や運動療法など身近な生活習慣を見直すことが重要でしょう。

心血管疾患の2次予防と家族性高脂血症について

前述したのは心血管疾患を発症していない人向けの予防(一次予防)の話でした。すでに心臓冠動脈狭窄による狭心症や心筋梗塞を発症してしまった場合の2次予防(再発予防)における脂質異常の管理については一次予防とは異なる対応が必要です。これはすでに冠動脈疾患を起こしてしまった患者においては血中脂質増加が病気発症に強く関与しているとの仮定に基づくものです。実際、1994年に報告された4444名の冠動脈疾患を用いたRCT(無作為研究)でスタチン製剤(LDLコレステロールを下げる薬)を投与した群とプラセボ(偽薬)を投与した群で予後を比較したところ、冠動脈疾患による死亡がスタチン群で111人、プラセボ群で189名という結果で、死亡の相対的なリスクが42%減少したことが示されました。最近はスタチンを処方しないで経過観察をする研究は倫理的に難しく、LDLコレステロールをどれだけ下げるかが研究の目標となっています。私の古巣である東京女子医大循環器内科を中心として行われたHIJ-PROPER研究が2017年にヨーロッパ心臓病学会誌に報告されましたが、スタチンを内服してLDLコレステロールを70-100にコントロールした標準治療群と70未満の治療強化群に分けられました(それぞれ約860例)。その結果、約4年経過観察して心血管イベントは前者で36.9%、後者群32.8%で、数値では強化群で低いイベント率を示すも、統計的には有意ではありませんでした(図1、参考文献3より)。しかし、米国では先行研究であるPROVE-IT TIMI-22 試験 (2004)、TNT 試験 (Treating to New Targets, 2005)がすでに治療強化群で有意に心血管イベントを減らすことが示されていました。民族や食生活の違いもあるでしょうが、我が国の前者の研究では有意差は出なかったという一つのエビデンスを作りました。しかし、我が国の前者の研究結果では、日本国内でLDL70未満の強化療法を否定するには早急であるとも述べられています。近年ではPCSK9という種類の注射薬によりLDLコレステロールを著明に低下させる新たな薬が登場し、特に家族性高LDL血症の冠動脈疾患患者の治療に用いられています(FOURIER試験)。この薬によりLDLは30まで低下するのですが、この治療によってもイベントは15%低下したにすぎず、その効果は限定的といわざるを得ません(図2、参考文献4より)。

「コレステロールが低いと癌が増える」は本当か?

アンチコレステロール派が今でも「コレステロールが低いと癌が増える」「日本人は癌が多いのでコレステロールは高い方がよい」という説を唱えています。これは本当でしょうか? この説は1970~90年代の観察研究で「総コレステロールが低い群ほど癌死亡が多い」という相関が見られたことから広まりましたが、その多くは逆因果(サブクリニカルな癌や肝疾患・栄養不良・喫煙等がコレステロールを下げている)で説明できると考えられています。その後、先ほど一次予防の話で述べた様々な大規模研究では低栄養や肝疾患などの交絡因子を考慮した多変量解析で、低コレステロールと癌の関係については否定されています。

 

私の結論

コレステロール、特に悪玉LDLコレステロールは心血管リスクの一つであることは言うまでもありませんが、適正なコントロール値については、初めて発症を予防する一次予防とすでに罹患した方の再発を防ぐ二次予防で異なっています。一次予防では基準値140を越えたあたりから食事療法と運動療法を意識的に取り入れ、それ以上上がらないように努めましょう。それでも170-180を越えるようなら特に男性では薬物療法を検討してください。吹田スコアを用いて自分のリスクを知っておくのも重要で、それを見てどのリスク因子を注意すればよいかがわかると思います。2次予防についてLDL100以下は必須、70以下に下げるかどうかはまだ明確なエビデンスはありません。心血管疾患の2次予防のためという名目で低ければ低いほど良いというのは現状では言い過ぎと考えられます。私はこの説については製薬メーカーとの利益相反が多分に絡んでいると考えています。PCSK9のエビデンスで見るように、LDLを30に下げても残余リスクが多いというのは他のリスク因子の修正が必要であることは明白であり、そこを議論せずLDLだけをターゲットにするのは言い過ぎでしょう。脂質異常管理のガイドラインを作成している世界中の医師はすべてこのスタチン薬剤に関する利益相反を持っています。その事実も考慮し、現場の医師には冷静に患者さんの診療を決めてほしいと思います。

参考文献

  1. Cannon CP, Braunwald E, McCabe CH, et al. Intensive versus moderate lipid lowering with statins after acute coronary syndromes. New England Journal of Medicine. 2004;350(15):1495-1504.
     (PROVE-IT TIMI 22 試験)
  2. LaRosa JC, Grundy SM, Waters DD, et al. Intensive lipid lowering with atorvastatin in patients with stable coronary disease. New England Journal of Medicine. 2005;352(14):1425-1435.
     (Treating to New Targets: TNT 試験)
  3. Hagiwara N, Origasa H, Ogawa H; HIJ-PROPER Investigators. Low-density lipoprotein cholesterol target value <70 mg/dL is not beneficial compared with 90–110 mg/dL in patients with stable coronary artery disease: a randomized controlled trial. European Heart Journal. 2017;38(16):1215-1223.
     (HIJ-PROPER研究)
  4. Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, et al.; FOURIER Steering Committee and Investigators. Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 2017;376(18):1713-1722.
     (FOURIER 試験)

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