医療・医学なんでもコラム

コラムNo16. 医者に行く前に診てほしい 患者のためのChat GPT活用術

AIの発達はめざましく、多くの専門分野でその威力を発揮している。その中で対話型AIであるChatGPTは多くの人が、悩み相談や専門的な情報を調べたり確認したりすることに使用しており、今や必須のアイテムになろうとしている。当然ながら医療従事者の間でも日常診療の相談として大きく貢献している。しかしながら、患者さんから見るとまだ医療・医学の壁は厚く、このような優れた武器があってもそれを使いこなすことは容易ではないようだ。Chat GPTは優れた機能を持っている反面、プロンプトという情報を得たいときにする質問が、的を得ていないと目的の情報を得ることはできない。その情報を得るためのプロンプトをどのように選択すればよいのかを今回解説したい。これは医師がどのようなプロセスで診断、治療を行っているかに強く関係している。そのあたりを具体的な例に基づき解説していきたい。

No1.  胸部症状編

質問1 「胸が痛いのですが、心臓が悪いのでしょうか?」

これをChatGTPに聞いてみると、「必ずしも心臓病とは限りません」の後に多くの鑑別診断が挙げられます。その際、鑑別に必要な症状が挙げられて自分にどれが当てはまるかを確認することができますが、これを自分で分析することは難しいかもしれません。

そこで、まず質問者さんには以下のことを条件にいれて尋ねてみるとよいでしょう。医師はいつも以下の項目を考えて鑑別診断をしています。

  • 自分の年齢、性別
  • どの時間帯(朝、昼、夜)、どのくらい持続するか? 労作でおこるか安静で起こるか?
  • 胸のどの辺が痛いのか、右側か左側か?
  • 健診を受けていれば指摘されている生活習慣病に関する情報(糖尿病の有無、コレステロールが高いかどうか、高血圧の有無など)

実はこの①‐④に答えてもらえばだいたい心臓病があるかどうかがわかるのです。

  • -④の内容を踏まえて、以下のような質問を投げかけます。

「50歳男性、朝出勤時に駅に歩いて向かう間に左胸に胸痛が出現、胸痛は立ち止まると改善する。高血圧を指摘されて45歳から降圧薬を服用している。」

上記の質問をChatGPTに聞いてみると、虚血性心疾患である可能性は80-90%であると回答し、鑑別診断も労作性狭心症以外は「まれ」として他の疾患を2つほど上げるにすぎません。

胸が痛いという訴えは若い人でもよくあります。心臓病は若い人には起こりにくいので年齢は重要な因子です。30歳の胸痛の方が同じような質問をしたらどうなるでしょうか? 

「30歳男性、左胸が時々痛むが安静で時間帯は無関係に発作が起こる。持続時間は5分程度。自然によくなる。健診は受けているが血圧も脂質も血糖値も正常である。」この胸痛の原因は何でしょうか? と尋ねてみます。

ChaGPTは狭心症の可能性を挙げてきますが、冠攣縮性狭心症という冠動脈が痙攣するタイプの発作はありうると述べています。そのため、質問者が「仕事のストレスはない、喫煙もない」と追加して述べると、狭心症である可能性を「まれ」としてかなり低く評価してきます。そのまれな病態でも心配する人もいるので診療所の受診はよいのですが、「異常なし」に近寄ることで心配が減り、胸痛が出なくなることもあります。医療機関を受診する前にこのような質問をChatGPTに投げかけることは意義のあることと思います。

質問2.「最近動悸がひどいのですが、心臓が心配です。大丈夫でしょうか?」

この質問だけ投げかけると、鑑別が5つほど出てきますが、さらにChatGPTは以下の症状を伴う場合は、救急外来を含め早急に受診してください。と述べて4つの症状を挙げています。

  • 胸の痛み・圧迫感
  • 息切れ、呼吸困難
  • めまい、失神
  • 動悸が突然強くなり、長く続く

これに当てはまる場合には循環器診療を受ける必要があると説明されました。

そして、「もしよければ、動悸が起こるタイミングや持続時間、脈の速さ、同時に出る症状などを教えていただければ、受診の緊急度や考えられる原因について、もう少し具体的にお話できます。」と親切に問いただしてきたので以下のように答えました。

「動悸は安静で起こり、運動時や仕事中はありません。胸の痛みや圧迫感はありません。めまいもありません。脈拍はそれほど早くなく、むしろ強く打つ感じです。」

すると、  不整脈(期外収縮)、自律神経の変動、ストレスや睡眠不足、カフェイン・アルコールの影響 を原因として挙げてきました。それぞれに具体的な説明がついていました。結論として、「現時点で重症の心疾患の兆候は少なそう」というコメントが得られました。もちろん、これに当てはまらない場合や心配であれば医療機関を受診する必要はありますが、ここで「受診しないで経過をみよう」という選択もありだということがわかるでしょう。

 これらのやりとりは診療所に来た時に医師と患者が行う会話と全く同じものです。診療所では心電図をとるかもしれません。ただ、脈を見ればだいたい異常は見抜けるので、患者さんの症状は脈を自分でとった時の様子を聞かせてもらえれば十分だと思います。

逆にかなり深刻な訴えをしたらどう答えてくれるでしょうか?

「動悸は安静でおこりますが、起こるとかなり脈拍が早くなり、血圧を測定した時に表示される脈拍数が172でした。動悸は10分ほどで自然に止まりましたが、このような動悸がまたでるかもしれないと不安です。その時に目の前が暗くなったり、失神したりはしていません。」そう、回答すると、

発作性上室性頻拍(PSVT)や心房粗動・心房細動の発作の可能性を回答しました。これは医師の判断と全く同じものです。これによりすぐに循環器科を受診する必要性を認識できると思います。

今回は、ChatGPTにより、自分の症状を正直に説明すると的確な答えが返ってくることをお話ししました。場合によっては具体的な症状やご自身の背景について説明することも大切です。何か症状があって受診したいけど迷っているという方には是非ChatGPTに診てもらってください。

  次回は腹部の症状について述べたいと思います。

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