医療・医学なんでもコラム

コラム20 あふれる医療ネット情報にふりまわされないために  

高血圧編

ネットが普及して以来、専門家と称する人たちがその専門知識をネットで公開するようになってきました。専門家であればまだ良いのですがSNSの時代になると、多くの人がアクセスするXなどで医療の素人たちが噂に近い医療情報を流すようになり、それを信じた患者さんが既存の医療に対して不信感を持つようになっています。上から目線のテレビメディアは(ネットなどで配信される)かような医療情報には注意してよく検証して対応しましょう、などと報じています。しかし、素人の方でそれを検証することは困難でしょう。また、専門家の意見だからといって、それを誤って解釈して実践するとご自身の健康被害を増やすことになります。医療情報はある特定の人に対するものではなく、ある大きなカテゴリー(たとえば高血圧の人、コレステロールが高い人たち)に対して、述べたものが多く、個別に当てはまらない人たちがいるのも事実です。医療というのは個々の患者さんに当てはまる相応しい医療を実践することが重要であり、通院されている人は是非、疑問に思った情報については主治医に相談することをお勧めします。ここでは少し具体例を挙げて、このような時にどう対処したらよいかを考えていきます。

  • 血圧は高い方がよい? 

医師で医療ジャーナリストの和田秀樹氏がしばしばこのような発言をし、時々炎上しているのを目にします。血圧は下げた方がよいという一般的なエビデンスに反することを主張しているので無理もありません。私の患者さんの中にもこういう意見を耳にして、自分の降圧治療は大丈夫なのかと疑問を持つのも無理はないでしょう。患者さんの中には「血圧の薬を飲むと認知症になる」と聞いた、と言って血圧の薬を拒否しようとする患者さんも診られます。和田氏の真意は別として「血圧が下がりすぎるのは良くない。」というのは事実でしょう。血圧の管理で難しいのは高血圧患者で最も高くなる時間帯(朝がしばしば最高値になる)に合わせて薬を処方すると、別の時間帯に血圧が下がりすぎてしまうことがあります。多種類の降圧薬を処方する人にしばしば起こります。高血圧ガイドラインでは、75歳未満の血圧管理は130/80 mmHg未満、75歳以上は140/80mmHg未満ですが(2025年8月の新たなガイドラインでは一律に130/80未満を推奨)、私は朝の血圧がそれよりやや高めでも診察室内での血圧が基準値内で夕方の血圧が十分下がっていればそれで良しとしています。低血圧で問題なのは頭がぼーっとする、立ち眩みで場合によっては転倒のリスク、特に高齢者では夜間の血圧が下がって家の中で転倒、骨折を招くことがあり、それが認知症の糸口になることがあります。「血圧の薬を飲むと認知症になる」という三段論法はここから来たものかもしれません。

高血圧は動脈硬化を促進し、脳血管障害や狭心症・心筋梗塞のリスクとなる重要な病態です。冬の寒い日には心不全で緊急入院する患者さんが増加しますが、その最も多い原因が高血圧です。降圧は非常に重要ではありますが、治療を受ける際には低血圧にならないよう主治医の先生に血圧管理してもらってください。その際、1日2回以上の自己血圧測定は診療の助けになります。患者さん自身の積極的な治療への協力がより良い治療に導きます。

  • 「血圧の薬を始めると一生飲むことになるので飲みたくない」

健診で高血圧を指摘されて来院される患者さんに、このような意見を述べる方がたまにおられます。患者さんの真意としては「血圧の薬飲む→自力で血圧を下げる能力が低下し、薬依存になる」という懸念だと思います。逆に降圧薬を服用し始めて血圧が下がると、それで自分は高血圧が治ったと思って薬をやめてしまうことがありますが、これも勘違いです。高血圧は一般的には遺伝的な要素が強く、生活習慣が悪いというのは原因の一部にすぎません。ある年齢に達することで高血圧発症に関連する遺伝子が発現して高血圧を発症するいわゆる「本態性高血圧症」がほとんどです。従って、降圧薬を服用しないと高いままだし、服用してもやめてしまうと血圧は元に戻って高くなってしまいます。塩分を過剰に摂取している人は減塩してみる価値はありますが、あまり変わらない人が多いと思います。生活習慣を変えても血圧が下がらない場合にはあきらめて薬を継続して飲みましょう。また、血圧の薬に耐性はありません。血圧が増加傾向で薬の量が増えることがありますが、これは患者さん自身の高血圧が悪化したためと思われます。急に血圧が高くなる場合には二次性高血圧といって昇圧作用のあるホルモンが過剰に分泌するために起こる高血圧症に罹っている可能性があります。その場合には主治医にそのようなホルモン(カテコラミン、アルドステロン、レニン活性など)を測定してもらってください。

昔、降圧薬がなかった時代の人は高血圧症になっても放置されていました。そのためとくに脳血管障害が非常に多かったようです。特に東北地方の人たちは寒さと過剰な塩分摂取により高血圧が進行したと推察されます。降圧薬ができて社会的にも降圧治療を広く行うようになった現代では脳血管障害患者は激減しています。このようなことからも降圧薬治療の必要性を感じることと思います。

高い血圧を長いこと放置していた場合には治療を始める際に多種類の血圧の薬を処方することになります。それらの薬はあまり減量できません。従って高血圧の治療は初期から受けてください。初期から薬を開始すれば動脈硬化の進行を抑制し、高血圧の進行も緩やかになるために降圧薬の種類も少なくてすみます。最終的に健康への影響を考えるとコストパフォーマンスは良好といえます。

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